まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集③「雪下ろし」
5/8(2011.1.21更新)



 おれはその電話の次の日には、電車に乗り込んでいた。元々野山で生活するだけで満足してしまうほどなのに、報酬まで出るのだ。正に願ったり叶ったりだった。

 何度かは事務所に戻ったものの、結局その冬はほとんどその村に居着いてしまうことになった。雪下ろしは村に着いて習い、すぐにコツを掴んで、村の家を片っ端から周って行った。

 その他にも、仕事は多かった。家や家具、電化製品の修理や、町への買い出し。果ては話し相手と、毎日休むひまがなかった。とにかくどこの家も一人暮らしの老人で、様々な不便を強いられていたので、やる事は次々に見つかった。おれは天職を得たりと目を輝かせ、プラスコ、と縮めて呼ばれている雪かき用のプラスチック・スコップを片手に、村中を駆けずり回った。

 初めは一軒の家の離れを使って寝泊まりしていたのが、いつしか村の名物のようになってしまい、あちこちから泊まりに来いという声が掛かり、泊まり歩くことになった。そしてどこの家でも歓待を受けた。

 ほとんどの家で、喰いきれないほど料理を並べられた。もちろんそうでない家もあったが、そういう家でも盛り付けなどに工夫が感じられ、厚くもてなそうという気持ちが伝わってきた。ある家では、綿を急遽打ち直して、半纏を新調して迎えてくれた。気遣いに胸を熱くさせられ、目がじわっと滲んだ日もあった。

 久々の来客に嬉しがり、村の人たちは一様に饒舌だった。夜が更けても喋り止めようとせず、おれは生活のパターンを乱して体調を崩さないかと心配しながらも、それら味わい深い話にじっくり聞き入った。

 雪というものは、時折見る分には、綺麗で情緒的なものだ。しかし毎日しんしんと降り積もり、白一色の中で埋もれて暮らしていると、気持ちは滅入り、しらずしらずに内向してゆく。実際のところ、素人の雪下ろしなんかがどこまで役に立っているか分からない。とりあえず屋根からは落としたものの、本当は落としてはいけない、溜めてはいけないような場所に雪を積んでしまい、後々下水が詰まったり日陰で凍って固まってしまったりと不都合が出てくるかもしれない。しかし、白く単調な世界に住んでいる一人暮らしの老人たちの、その単調の中のひとつのアクセントにだけはなったのではないかと、それだけは確信していた。それでみんながちょっとでも活気付いて元気になってくれれば、多少なりとも来た甲斐はあったというものだ。

 三月になり、村をあとにする時は不覚にも目が真っ赤になってしまった。そして必ず来年も来るからと、村の人たちと、そして自分自身に誓ったのだった。

 おれは初めて、なんでも屋をやって良かったなァと思った。それと同時に、先輩にも感謝した。やはりああいった村は、誰か知っている者の紹介でもないと、中々すぐにとけ込めないからだ。

 それからは毎年、冬になると雪下ろしの旅へ出た。ノートにはその記録がつまっている。

 二年目は、アルバイトを数人連れて行った。彼らは前年のおれのように、村に春まで居着いてしまった。

 三年目は、仕事をくれる村がひとつ増えた。ユニークな男がいると、口コミで広がったのだ。おれは後輩の大学生を再び狩り出し、忙しく二つの村を駆け巡った。

 四年目からは、大学を卒業したコータが社員となってくれていたので、おれは冬になると事務所の方は任せっきりにして、雪の中を飛び回った。雪下ろしを依頼してきた村が、また一つ増えてもいた。