まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>流辺硫短編小説集②「塔」
2/11(2010.10.20更新)



塔写真撮影者:らら(photost.jp)


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 名古屋の実家から貴夫の元に母親の死亡を知らせる連絡が来たのは、金曜日の朝のことだった。ちょうど出勤前の慌しい時間に掛かってきた電話だったが、危篤状態になって長かったので貴夫に覚悟はできていて、別段取り乱すことなく冷静にその連絡を聞いた。

「今朝の六時くらいかな。ちょうど岩田先生が宿直でさ、残念がってくれて……」

付きっ切りで世話をしていた兄からも、特に電話の声に悲しみの色は薄かった。

「そうか。でも、特に苦しんだりとかはなかったんでしょ」

「あぁ、それはなかったよ。先週貴夫に来てもらったときからまったく変わってなかったからさ。もう自然にスッと、って感じでね」

 ほとんど毎週末、住んでいる神奈川から名古屋まで見舞いに向かった貴夫だったが、前回の見舞いでは、母親はもう意識がなくなっていた。

「じゃあしょうがないよね。でも兄さん、今までありがとうございました。きっと母さんも喜んでたと思うよ」

 兄の声に疲れを感じ、貴夫は、ちょっと他人行儀に、これまでの看病に対してしっかりと礼を言った。

「急になんだよ改まって。まぁでも悔いのないようにはやったからさ。それでさ、今日これから役所とか色々な手続きをすることになるんだけど、今晩じゃなくて明日を通夜にして、あさってを葬儀にしようと思ってるんだ。そうすればちょうど土、日になるし、だいたい貴夫だってこれから職場に休むって言いづらいだろ」

一応、母親が危篤なので急に休みを取ることになるとは会社に伝えてあったが、さすがに当日の朝では、職場がごたごたしてしまうことは目に見えていた。


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