まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>東上線 各駅短編集第18回
第十八回(2010.8.15更新)


西国分寺で中央線を降りて武蔵野線のホームに上がると、強風のため全線ストップしているという案内が出ていた。そうなのだ。高架部分の多い武蔵野線は、ちょっとでも強く風が吹くと止まってしまうのだ。

帰宅時間帯なので、駅は混み合っている。駅員にいろいろ訊いてみたかったが、窓口に列ができているのを見て、諦めることにした。

―― さて、どうしようか……。

よりによって、立川で直帰になった日に武蔵野線が止まるなんてまったくツイてない。自宅は新河岸で、いったいどうやって帰るのがベストなのか悩んでしまう。東京、特に都下は、南北のラインが実に不便なのだ。

たしか国分寺から川越方面に西武線が出ていたと思い出し、再び中央線に乗ることにした。
すぐに国分寺に着き、西武線の連絡改札を通る。ちょうど出発直前で、皆が小走りでホームに向かっている。なんとなくそれにつられて走ってしまう。
乗り込んで三秒も経たないうちにドアが閉まった。メロディーもベルもなく、キンコンというチャイムのような音が一回しただけだった。うるさくないのはいいが、乗りなれていないと乗り遅れてしまいそうだ。

単線が新鮮に感じられる。東京を走っている感じが薄い。一駅目で半分くらい降りていき、すいたので移動して路線図を見てみた。

――えっ?

路線図では国分寺から二本の路線が出ていて、乗ったのはどうやら川越に向かう路線ではないようだ。

それにしても、西武線のなんと分かりにくいことか。特に、今向かっている萩山周辺は縦横に路線が入り乱れて、どの路線がどうなっているのかまったく分からない。
東上線を見習ってほしいものだ、と小さく憤慨する。東上線はきれいに一本。支線も坂戸から越生線が一つだけと、シンプルで実に分かりやすい。

終点の萩山に着く。ここからどうやって川越に向かえばいいのか分からない。どうしよう、もう一度国分寺に戻るか。いやいやそれはバカらしい。北上して、多少は埼玉方面に近づいているはずなのだ。
階段を上がって改札に行き、駅員に訊いてみる。

「すみません。ここから新河岸に行きたいんですけど」
「えっ、シンガシ、ですか?」

駅員が戸惑った表情を見せる。

「えぇ。東上線の、川越の隣の駅なんですけど……」
「あ、じゃあ川越に向かえばいいですね。それなら西武新宿方面に向かって、次の小平まで行っていただいて、そこから本川越行きに乗り換えていただければ大丈夫です」

礼を言って三番線に向かった。ホームに降りるとすぐに電車が来た。

新河岸駅は世間に知られていないなぁと思う。東上線沿線に住んでいる者以外で、すぐに分かってくれたことはない。知らないならまだいい。駅名を伝えると、ヘンな感想が返ってくることが多いのだ。「海が近そう」とか「市場みたい」とか。なんとなくカッコいいなどと、抽象的なことを言われたこともある。たしかにちょっと変わった駅名ではある。海のない埼玉県にあるというのもピンとこない。それにしてもこの間、おっかなそうな名前と言われたのにはびっくりした。なんでだろう。魚河岸のゴツい連中でも想像したのだろうか。

小平に着いて跨線橋を渡り、本川越行きに乗り込んだ。これでひと安心。ようやく家に向かっているという実感がわいた。

―― とんだ直帰だなぁ。

つり革に掴まりながら、東上線沿線とたいして変わらない住宅地をぼんやりと眺めていた。




― 了 ―
次回の更新予定は8月25日(水)です

【駅周辺散策】
■■新河岸■■■

他の私鉄に比べて高架化が進んでいない東上線。乗っていると、踏切が多いなぁと感じます。
そんな沿線風景の中、新河岸~川越間は、ユニークなカタチで高架になっています。
ここの高架は、まるで土手のようです。きっちり工事されたコンクリートのものではなく、橋げたも並んでいません。
高架ですので、当然下には道が通り、車がくぐっているのですが、それを見ていると肩をすくめてしまいたくなります。



高さ制限が大きく記載されているのですが、1、8メートルとなっているのです。ちょっと大きな男の人でもつっかえてしまいそうな高さなのです。その隣の道はもう少し高いのですが、それでも2、5メートル。もちろん幅もせまく、ワンボックスやトラックが来たらたいへんなことになってしまいそうです。しかもつっかえる前に分っても、Uターンをパッとしづらい道なのです。

道が細かく入り組んでいるうえに、極端に高さが制限されている高架があって、しかも小さな川がいくつか流れています。地元の人なら慣れているからいいでしょうが、宅配便の車などが入ってきたら、けっこうシンドい思いをしているんじゃないのかなぁ……。
と、つまらない心配をしてしまいたくなる場所なのです。

新河岸の駅に近づくにつれて土手は低くなっていき、駅ではもう、地上との差はありません。駅の横には踏切があり、歩行者の地下通路も作られています。
味わいのある土手の高架は、一駅分もないのです。


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