| まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>東上線 各駅短編集第十五回 |
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第十五回(2010.7.15更新)![]() |
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新幹線は、新富士の駅を通過したところだった。 「いいねぇ」 孝二はビール片手に、ボソッと呟いた。 「なにが、いいねぇなんだよ」 となりの宣彦が、怪訝な表情をする。それまで話していた内容からまったく脈絡のない呟きだったからだ。 「え、いやゴメン。なんかさ、「新」が付く駅が通過されてんの見るの、うれしくてね」 孝二は、「新」の字が付いている駅が嫌いだ。「新」だけでなく、「東」「西」「南」「北」が付いている駅もだ。いや、嫌いというわけでない。それらが付いた駅が、元々の駅より栄えているのが好きではないのだ。 なにしろ彼は東上線の朝霞生まれの朝霞育ちなのだ。朝霞は、あとからできた隣の朝霞台の方が乗降が多く、盛えてしまっている。彼はそれを、気に食わないと思って生きてきたのだ。 だからそういう駅に来ると、不愉快な気持ちになってしまう。たとえば彼らがこれから向かう新大阪駅だ。新幹線が通っているせいで、街はともかくとして駅の規模は元々の大阪駅を凌いでいる。連れがいなければ、京都で降りて在来線で大阪入りしたいところだ。 「なんだそりゃ。子供かよ」 説明された宣彦は、ビールをぐいっと飲んだあと、呆れ顔で言った。 「なんだよ、お前だって朝霞育ちじゃないか。悔しくないのかよ」 「バカだねぇ。三十過ぎにもなって、バカバカ」 にやつきながら宣彦が言う。気の置けない友人。しかも新幹線のなかで酒盛りの最中だ。くだらない話で盛り上がるのに、これ以上の状況はない。 「あぁ、バカでけっこう。さっき通った新横浜駅なんか謙虚じゃんか。ちゃんと横浜駅に控えて、おとなしくしている感じだろ。私は新幹線の駅としての機能を受け持つだけでけっこうですって」 「で、朝霞台は許せないのか。でもしょうがないだろ、向こうは乗換えがあるんだしさ」 「それが許せないんだよ。乗換えがあるってだけで、本家を差し置いて栄えちゃって。俺調べたんだけど、乗降数なんか朝霞と倍以上違うんだぜ。乗換えの片棒を担いでるって点では、武蔵野線の北朝霞も同罪だな」 「本家か。まるでラーメン屋だな」 「お前ももっと悔しがれよ。おれたちゃ朝霞市民であって、朝霞台市民じゃないんだぜ。朝霞が本家で、「台」や「北」が付け足してある駅なんか、子分みたいなもんなんだぜ」 新幹線は静岡駅を通り過ぎる。新静岡じゃないのが好ましいと、孝二は満足顔でつまみをかじる。 「えっと何時に着くんだ。孝二、ちょっと時刻表見せて」 大阪に向かうのは、友達の結婚式に出席するためだ。古くからの地元の友達だったのだが、奥さんの家業を継ぐということで関西に引っ越すことになったのだ。 「でもさみしくなるなぁ、ヤツがいなくなって」 「あぁ、仕事も向こうじゃなかなか帰ってこられないだろうしな」 少ししんみりした空気が流れる。兄弟の少ないこの時代、幼なじみはある種親類のようなものだ。 「それにしても新幹線って、関西から向こうに行くと「新」が付いた駅が多いなぁ、おい」 宣彦が話題を変える。しんみりした空気を吹き飛ばすためのにやつきが、ちょっと演技っぽい。 「だろ。「東」や「西」の付いたのもあるぜ」 「ほんとだ。東広島に西明石、か。孝二、気になるだろ」 「いや、みんないい駅だよ。だって元々の駅より栄えてる駅は一つもないぜ」 孝二も演技っぽくその調子に合わせる。そう、自分たちは結婚式に向かっているのだ。しんみりした雰囲気で向かって行くのでは、友達に申し訳ない。空気を完全に吹き飛ばすため、孝二はカバンから新たにビールを二缶、取り出した。 |
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| ― 了 ― 次回の更新予定は7月25日(日)です |
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