まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>東上線 各駅短編集第十二回
第十二回(2010.6.15更新)



川越駅の改札前コンコースは、いつも混んでいる。東上線とJRの川越線が隣り合っているうえ、駅ビルの入口にもなっている。また西口と東口の連絡通路になってもいるので、混んでいるのも当然というものだ。

巧は辺りをくまなく見回す。東上線の改札前での待ち合わせだが、こう人が多いと相手を見つけるのもひと苦労だ。

ポンと肩を叩かれ、振り向くと良幸が満面の笑顔で立っていた。

「久しぶりだなぁ。タック、ちっとも変わってねえなぁ」

呼ばれて、二十年前の中学でのあだ名を思い出す。巧も良幸の当時のあだ名を思い出し、それで返す。

「ヨーユーだって変わんないじゃんか」

「おれかぁ。そうかなぁ、だいぶ太っちまったよ」

そう言って、良幸はまた大笑いした。大笑いと間延びした話し方が良幸の特徴だった。隣にいる女性が迷惑そうな顔を向けたので、巧は良幸を促して歩き出した。

東口を出てビルの横を通り、螺旋階段を降りて商店街を歩く。人通りは多いが、歩きながらなのでさっきよりは話しやすい。

「しかしタックが帰ってきてくれてうれしいなぁ。タックが戻ったから、久しぶりに集まろうって話になったんだぜ」

「でも、ちょくちょくとはいかないまでも、みんなで会ってんだろ?」

「前はな。ここんとこは会ってなくてさ、今度の飲み会、考えてみりゃ七年ぶりなんだぜ」

「へぇ、そうなんだ。まぁみんな一番忙しい時期だからな」

大学を卒業して入った会社が通信関係だったので、巧は一年目から全国のあちこちに飛ばされ続けた。それがようやく、東京に落ちつけることになった。それを中学時代のなかよし連中が聞きつけ、集まろうということになったのだった。
そして良幸は率先して、幹事を買って出た。

「せっかく久しぶりに集まるんだ。普通の飲み会じゃ面白くねぇから、ちょっとひと工夫するぜ」

連絡をしてきた良幸は笑いながら巧に告げた。

本川越の駅を左に見ながら、さらに真っ直ぐ進む。天気のよい日で、巧は少し汗ばんでいる。丸々太って中学時代の面影が薄れてしまった良幸などは、玉の汗を浮かべていた。

「しかし遠いなぁ、菓子屋横丁」

良幸がハンカチで額や首筋を拭きながら言う。

「なに言ってんだよ。お菓子横丁で買い出ししようって誘ってきたの、ヨーユーの方じゃんか」

「お菓子横丁じゃなくて菓子屋横丁、な」

良幸がふぅふぅ言いながらも反論する。懐かしい駄菓子でもテーブルにズラッと並べて飲み会をやろうと、良幸は計画したのだ。そして、買い出しに一緒に行こうと誘ってきたのだった。

駄菓子なんか持ち込んだら店に怒られるだろと巧が言うと、飲み会の場所は友人がやっているスポーツカフェで、当日は貸し切りにしたので問題ないと言う。それならということで、巧はOKの返事をした。久々に関東の街を歩いてみたかったし、なにより自分が帰ってきてパッと場を立ててくれたことに感謝していた。

菓子屋横丁に着く。休日なので人混みがすごい。良幸は立ち止まって汗を拭いたあと、行こうゼ、と巧に笑顔をぶつけた。
菓子屋横丁は駄菓子だけではない。甘味処もあれば、和食のお店もある。むしろ駄菓子だけを扱っているのはほんの数店だ。有名なわりには狭く、その路地も入り組んでいる。しかし活気があり、まるで祭りの縁日を練り歩いている気分にさせてくれる。

なんだか、懐かしい。中学時代、部活のランニングで街を一周させられた。自分たちが上級生になった頃、駄菓子屋でサボって、頃合いを見計らって戻るということを時おりしていた。そのとき率先してサボりの細工をしたのが、良幸だった。そういうことに長けた男なのだ。

「お、これこれ」
「うわ、これもあるぜ!」
「あ、まだこんなの売ってんだな」

巧と良幸ははしゃぎながら店を見て回る。巧は救われた気持ちになった。子会社に出向させられ、東京に戻ることになったのだ。けっしていい戻り方ではない。もう昇進は頭打ちになったということだ。腐った気分で新幹線に乗り込み、その気持ちはずっと続いていた。

「お、これ昔よく食ったなぁ。たくさん買ってこうぜ」

巧を肘でつつきながら良幸が大きな声で言う。巧もその口調に合わせる。他の友人から聞いたところでは、良幸は離婚問題が長引いてたいへんらしい。それでも、そんなことを微塵も出さずに、こうやって明るく振舞ってくれている。

初夏の気持ちのよい青空と旧友の気遣いで、巧は帰ってきて本当によかったと、あらためて思った。
二人は、行っては戻り、行っては戻りと何度も練り歩いた。



― 了 ―
次回の更新予定は6月25日(金)です

【駅周辺散策】
■■川越■■■

都心から近くて便がいいので、週末の川越は人で賑わっています。
喜多院、菓子屋横丁、時の鐘など、観光の場所が市のあちらこちらに点在しているので、大通りや路地にくまなく人が行き交っていて活気があります。

本川越から時の鐘に向かう道にある商店は、なんとなく小江戸の雰囲気が漂います。
もちろん、観光地に合わせて江戸時代っぽく飾っている店もあるのですが、それだけでなく、売っている物がまず違うのです。

お釜やざる、暖簾など、古風な小物が売られているのが目立ちます。包丁を売る店もいくつかありますし、着物や和楽器の店もあります。
古い建物の醤油の製造会社もあって、街そのものが小江戸という観光の「売り」を自然に演出しています。

東上線の川越駅は、その演出に一役買っています。瓦屋根があちらこちらに付けられているのです。


まず、駅の壁。上りも下りも、壁にはずっと瓦屋根が付きます。下りホームの立ち食いそば屋にも、自動販売機の上にも付けられています。ちょっと、土蔵や屋敷に挟まれた場所のよう。
JRの川越も西武の本川越も飾り気のない駅なので、東武はなかなかガンバッてるなぁと感じてしまいます。





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