まつやま書房TOPページWeb連載TOPページ>東上線 各駅短編集第九回
第九回(2010.05.15更新)


真冬の森林公園駅は、寒い。なにしろここまで下るとビルも住宅地も消え、周辺が木々に囲まれているのだ。植物たちが二酸化炭素を取り込んで酸素を吐き出すので、一帯の空気はしんしんと冷やされている。夏は快適だが、冬はまったくもって堪える。
また駅名に「森林」などと付いているせいで、気分的にもより寒く感じさせるのだ。

一番線に到着した電車が、ドアを開ける。とたんに冷たい風が入りこむ。できれば降りたくないものだが、ここ止まりとあっては仕方がない。幹也は全身をちぢこませながら、電車を降りた。

― まったく……。

時計と表示を見比べて、ため息をつく。さらに下る電車は十三分後だ。それまで寒風吹きすさぶなか、待っていなくてはいけない。あとたった一駅で我が家だというのに、この森林公園止まりにはいつも泣かされる。特に寒い時期はなおさらだ。

電車から吐き出された客は、改札に向かう人数よりホームに残る方が多い。皆幹也と同じように、体をちぢこませてジッとしている。

どうしよう、自動販売機でなにか温かい飲み物でも買おうかと、彼はちょっと迷う。しかし何杯呑んだか分からないくらいビールを呑んだので、腹がたぷたぷしていてあまり飲む気がしない。彼はそのまま待つことにした。


首都圏から郊外へと延びる路線には、たいてい途中に、ゴールキーパーのような駅がいくつかある。その駅で電車を止めてしまうのだ。そしてそこから先へ進む本数を激減させてしまう。

東上線は終点の小川町までに、成増、志木、川越市、森林公園と四ヶ所にゴールキーパーが立ち塞がっている。それぞれがなかなか優秀なキーパーで、来る電車のいくつかを好セーブで止めてしまう。まず各駅停車シュートは、成増が止める。成増は、短い距離からの勢いのないシュートを止めるのが得意なのだ。志木もすぐれたキーパーで、成増の逃した各駅停車を、がっちりと止める。
しかしなんといっても優秀なのは川越市で、準急のほとんどを止めてしまうのだ。各駅停車と準急を止められた東上線は、そこからぐっと本数が少なくなるので、川越市のセーブがより印象強く映る。

そして問題は森林公園である。なにしろ、小川町までたった三駅なのだ。あともうちょっとで終点というところで、そこに来る電車の半分を止めてしまう。
なんでこんな終点近くでと、どうしても思ってしまう。終点近くで半分もセーブするキーパーのいる私鉄、他にはないのじゃなかろうか、と幹也はここで待たされるたび、いつも思う。しかも深夜十二時台は全てセーブしてしまうので、森林公園より手前とその先では、終電が一時間違うことになる。

かくして、池袋から分刻みで次々発車しているというのに、そして地下鉄も途中和光市から加わるというのに、小川町に辿り着くのは一時間にたったの二、三本となってしまう。つきのわが最寄り駅の幹也には小川町行きだけがたよりで、この本数は本当にがっかりする数字だ。


― まさしく、シーン……、だな。

静まり返ったホームを見て、幹也は思う。人はいるのだが、皆黙り込んでいる。まぁ一人であれば寒くなかろうが黙っているものだが、ピンと張り詰めたような冷えた空気は、より静まって感じさせる。

一人佇んでいる彼らとて、多くは連れがいたにちがいない。しかしそれら連れは、もっと交通の便のよいところに住んでいて、「じゃ」とか「またね」とか言って途中で去って行ってしまったのだ。幹也だってそうだった。立ち飲み屋で楽しく呑んで、新宿三丁目で副都心線に乗り込んだときは三人だった。それが、早くも上福岡で一人になっていた。

― 今頃あいつら、もう寝てんだろうなぁ。

そう思うと、さらに寒さが厳しく感じる。幹也はホームにいる何人かの客と同じように、小さく足踏みをしながら、早く来ないかと上りの方角の線路をじっと見つめていた。




― 了 ―
次回の更新予定は5月25日(火)です

【駅周辺散策】
■■森林公園■■■

さすがに駅名が、「森林」の「公園」だけあって、駅前は住宅地とはいえない雰囲気です。もちろん池袋からの直通電車が次々来る駅なので、地方のローカル駅のように静まり返っているというわけではありません。でも、やはりそれまでの東上線の駅とは、ひと味違います。

しかしその、自然の多く残る環境が、実にほほえましく感じる駅でもあります。
駅の構内にはツバメが飛びまわっています。そしていくつかの場所に、手作りの巣箱が取り付けられています。
「今年もツバメが来てくれました。フンには気をつけてください」という貼り紙もあり、なんだか温かい気持ちにさせてくれます。

階段には、ツバメの糞のあとがたくさんありますが、フン自体がないのは駅員さんがマメに掃除しているからではないでしょうか。

改札の横の窓口に、ポスターが貼られています。森林公園にようこそという文字と、その横にモモンガの絵が描かれています。その文字と絵、手描きなのです。

最近はどの駅も同じような造りでつまらないのですが、こんなちょっとした「手作り」や「手書き」は、個性を感じさせてくれます。


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