| まつやま書房TOPページ>Web連載TOPページ>東上線 各駅短編集第二回 |
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第二回(2010.03.5更新)![]() |
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さすがに夕方六時半は、通勤帰りの客が多い。 「さぁて……」 電車を降りた春也は、これからどうしようと、立ち止まって考えようとした。 しかし下り電車から吐き出された客の流れが、足を止めさせてくれない。流れに逆らわないように小さく歩を進めているうちに、階段へと向かわされてしまった。仕方なく、そのまま上って北口へ向かう。そして改札前で流れからはずれ、トイレに入った。 坂戸駅は改修工事中で、張りぼてのようなトイレは狭くて圧迫感がある。用を足した春也はそそくさと立ち去った。 改札越しに北口ロータリーを見る。 全て見渡したわけではないが、我が家の車は見当たらない。待ち合わせは七時なので、当然といえば当然だ。改札を出て探すまでもないだろう。 春也はくるりと回れ右して、階段を上がって行った。 広い連絡通路は閑散としている。 東上線のホームへと降りる階段と、越生線のホームへ降りる階段の間にある、窓ガラスの前に立った。 下を、線路が通る。東上線の下りと越生線。春也はガラス越しに、その鉄の棒四本をじっと見つめる。 一つ大きなため息をつくと、ガラスが少し曇った。 昼休みに、妻の奈津美からメールがあった。届け物があって、車で実家に来ているという。夕方までのんびりしていくから、坂戸駅で待ち合わせて外で食べて帰ろうという内容だった。 春也は了解と打ち返した。今日は残業もなく、早く帰れる日だ。それに、急な外食は息子の悠斗も喜ぶことだろう。 何時に帰れるかと尋ねられ、七時と返すと、じゃあその時間に北口ロータリーで待っていると返信が来た。奈津美の母親の膝に乗っかる悠斗の画像も、添付されていた。 万が一遅れてしまったら二人から責められることになる。春也は早めに会社を出たが、それがどうも早すぎたようだった。地下鉄から東上線に乗り換え、これでは早く着いてしまうと思いながら、春也はまだ日の落ちていない車窓を見ていた。 そして、予定より三十分も早く坂戸駅に着いてしまった。なんとも中途半端な時間。これから飯を食うのにコーヒーなんか飲みたくないし、帰りは春也の運転となるだろうから一杯引っ掛けるわけにもいかない。 いろいろ考えているうち、連絡通路に上がってきてしまったのだった。 ぼんやり線路を見つめていると、越生線が入線してきた。白い車体は各駅停車で見慣れているからか、なんとなく実直そうに感じてしまう。 最近、この窓から電車を眺めることが多い。何故だろう。電車に凝りだした悠斗にビデオやら本やら毎日付き合わされ、影響を受けてしまったからだろうか。 春也自身だって、中学に上がるくらいまでは大の鉄道好きだった。その当時の口癖を、この前なにかのはずみで、ふと思い出した。 「乗り換えのある駅に住みたい!」 あの頃、親にしきりに言っていた言葉だ。 平凡な住宅地にある、乗り換えのない上りと下りだけのホーム。それが春也の実家の最寄り駅だった。鉄道少年にとって悲しむべき僻地。いずれ絶対、乗り換えがあっていろんな電車が行き交う駅の町に住むぞ、と一人静かに誓っていた。 それから十数年経って親元から離れた頃には、そんな思いはすっかり忘れていた。しかし偶然にも、人生初めて持ったマイホームは乗り換えのある坂戸だった。 東上線は他の私鉄と違い、沿線にほとんど支線がない。唯一、この坂戸駅から出る越生線だけだ。その唯一の駅にマイホームを持つなんて、果たして偶然だろうか。もしかしたら潜在意識の中に残っていたのかもしれない。 なんとなくホームに立ってみたくなって、春也は東上線の階段を降りてゆく。 越生線のホームは、両側に電車が停まっている。そして東上線のホームには、上りと下りが同時に入線してくる。 「おぉ!」 18時45分、4線すべて埋まった坂戸駅で、春也はちょっと唸る。そして乗り換えのある駅に住んでいることを、いずれ悠斗は喜んでくれるかなぁと、雑踏の中でぼんやり考えた。 |
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| ― 了 ― 次回の更新予定は3月15日(月)です |
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